自宅で熟成肉チャレンジ

Dry Aging Bags (opens new window)を使って自宅で熟成肉を作ってみました。その覚え書き。以前の職場の先輩に肉の熟成くらいしなきゃダメだと煽られたので挑戦です。

写真は敵情視察をした ベンジャミンステーキハウス。このレベルに行きたい。

# 熟成肉とは

熟成肉とはなんなんでしょうか。

熟成肉とは、一定期間低温で保存した肉で、肉の質感、味が変化することでおいしくなると言われている。食肉は、死後硬直後、酵素の働きで保水性が高まり、アミノ酸やペプチドが増加して味、香りがよくなると言われている。

熟成肉とは | 熟成肉の格之進 (opens new window)

引用元記事にもある通り、日本には熟成肉の明確な定義は存在しないようです。日本ドライエイジングビーフ協会 (opens new window)というものが存在し、後述するドライエイジングの手法に関しては定めてはいます。しかし、この協会の概念がどこまで広く受け入れられているのかは謎であり、「熟成肉」はとても曖昧な言葉のようです。飲食店によっては、単に3日程度冷蔵庫に置いたような肉を熟成肉として提供している店もあるらしい。

少なくとも、私が挑戦したDry Aging Bags (opens new window)はドライエイジングを謳ってはいるものの、日本ドライエイジングビーフ協会が定める定義 (opens new window)には収まっていません。(重要視されている「風」の作用はないし、"真空"パックをしている。)

とはいえ、冒頭の引用の通り、また後述する通り、Dry Aging Bags (opens new window)を使い保存をすることで味の変化や香りの変化を感じることはできたので、広い意味での熟成肉には該当するという前提で「エイジング」や「熟成」という言葉を使い下記記述をします。

# 熟成の種類

熟成技法にはいくつか種類があります。

# ドライエイジング

ドライエイジングはアメリカ発祥の熟成方法です。

1~3度の熟成庫において肉塊に風を当て続けて熟成させます。敵情視察に行ったベンジャミンステーキハウスもこの手法です。

食品の水は「自由水」と「結合水」という2種類に分類され、自由水は食品の内部を自由自在に移動し、微生物や雑菌が繁殖しやすい水です。ドライエイジングは風を当てることで、腐敗の元になる自由水を減らしています。これを「水分活性値を下げる」と表現するようです。熟成肉は自由水は少ないのですが、「結合水」は残っているので肉本来のみずみずしい感じも内部には残っています。

ドライエイジングは日本でも研究されている手法であり、安全に配慮した日本特有の工夫も見られます。例えば、杉本食肉産業株式会社では、マイナス1度に設定した熟成庫で熟成をさせています。通常、この温度では肉が凍って熟成が進まないですが、電流による振動を加え凍結することを防いでいます。

# ウェットエイジング

ウェットエイジングは、真空梱包下で行う熟成方法です。

元は食肉を長期保存するために生まれた手法です。真空パックの技術が発達したことにより、雑菌の繁殖を抑えて長期保存ができるようになりました。この保存をするという目的で真空パックに入れておいたら、肉の熟成が進み、味が美味しくなるという付加価値がつき、ウェットエイジングと呼ばれるようになったようです。

ドライエイジングよりは、歩留まりが良いですが(無駄になる部分が少ない)、ドライエイジングに比べると熟成による独特のフレーバーが醸成されにくいようです。

# その他

これ以外にもいくつか熟成技法は存在し、例えば、日本の伝統的な熟成方法に「吊るし」または「枯らし」と呼ばれる手法があります。

元は精肉店で枝肉を冷蔵庫内に吊るして保存しており、時間が経過するごとに肉の旨みが増して美味しく食べられることが知られていたようです。ドライエイジングとの違いは風の作用がないということです。

完全理解 熟成肉バイブル (opens new window)

# 自宅で熟成肉を作る

家庭で熟成肉を作るには、ウェットエイジングのように梱包下で行うのが現実的のようです。ドライエイジングに挑戦する可能性を模索し切ったわけではありませんが、それでも最初の一歩としては、Dry Aging Bags (opens new window)のようなパッケージを使って行うのが手軽で良いでしょう。

Dry Aging Bags (opens new window)は、ウェットエイジングのように梱包下で熟成させるので手軽です。また、袋に使用されている素材が水分を外に出すことができるので、ドライエイジングのように自由水を少なくすることができます。

# 準備編

まずは準備編です。特に難しい点はありませんが、意外に重要なのが家族からの理解を得ることです。私はここを疎かにして途中で捨てられそうになりました。

# 肉の準備

写真を撮り忘れたので、ゴミの写真。

エイジングをすると表面は食べられなくなります。結果、表面をトリミングをする必要があり、さらに水分が抜けるため、可食部は必然的に少なくなります。そのため、なるべく大きな肉塊を準備する必要があります。

今回は脂身が多い部位で挑戦してしまいましたが、赤身の方が熟成するには良いようです。熟成とはタンパク質が酵素の働きにより軟化し、遊離アミノ酸が増えることによる食味性が増すこと目指すからです。

勝どきのあんず (opens new window)は本当に良い肉屋です。ただし、毎月29日の肉の日は混み合うので避けるべきです。

# 袋詰め

あとは買ってきた肉をDry Aging Bags (opens new window)に詰めるだけです。Dry Aging Bags (opens new window)には、肉を包む袋と黄色い帯が入っています。

肉を袋に入れる前に、肉の表面の水分を拭く派閥とそうではない派閥があるように見受けられましたが、自分は拭かずに詰めました。詰める際に注意する点としては、とにかく清潔な状態で作業をするということです。ここで雑菌が入ってしまうと腐ってしまうようです。自分はその拭く行為によって菌が入ってしまうのでは?と心配になり拭きませんでした。

黄色い帯がなんなのか不明で様々なソースを探したのですが、フードシーラーを使って袋から空気を抜くために付属されているようです。真空パックをする際に、間に挟むことにより空気を抜けやすくします。普通の真空パックをする袋はザラザラと凹凸があり、その間から空気を抜きますが、Dry Aging Bags (opens new window)にはそのような凹凸がないために、この黄色い帯を間に挟むことにより真空化することができます。

DRY AGEING BAGS - PART 1 | Dry Age Steak at home EASY. (opens new window)

真空と今まで記述していましたが、実は厳密に真空にさせる必要はなさそうです。袋の最低限85%の空気を抜けば良いとの記述がDry Aging Bags (opens new window)のガイドには記載があります。そのため、袋を水につけて抜くことでもできそうです。私は一般的なフードシーラーで対応をしました。

How To Dry Age Meat | DryAgingBags (opens new window)

# その他

重要な点として長い間冷蔵庫の一部を占有するので家族などからの理解は得ておく必要があります。さらに、なるべく冷蔵庫の温度を上げたくないので、開け閉めも素早くするようにお願いをしなければなりません。

自分は SwitchBot で冷蔵庫の温度・湿度を監視していましたが、温度が上がってしまうのは避けられない上に、上がったからと言って何ができるわけではないので、途中からは見ないようにしました。

# 熟成編

熟成編は特に何もすることはありません。今回は20日ほど熟成させました。本当は1ヶ月しようと思ったのですが、お腹を壊した場合を想定して、次の日に予定がない日を選ぶとここら辺で食べる必要がありました。また、どんどんと重さがなくなっていくのに心配になったという点も時期を早めた理由です。

温度は1~4度、湿度は70~80%にするのが良いようですが、一般家庭用の冷蔵庫で厳密に管理するのは難しかったです。

熟成中は定期的に重さを計りました。Dry Aging Bags (opens new window)は、水分を外に出してくれるので時間が経つにつれて水が抜けて、軽くなっていきます。熟成?の進捗度合いをこれで1つ確認できます。

今回は最終的に20日間で、448gまで落ちました。元の肉塊と比べて、80%くらいの重さになりました。

# トリミング編

袋から出すと白いカビがあり、怖かったのですが、調べると白いカビができているのは成功の証だということです。

熟成をすると表面が硬くなり、食べられなくなってしまいます。その部分を切り落とします。

最終的に可食部として残ったのは、254gです。最初の重さと比べて半分になっているので、とても贅沢な食べ方です。

# 調理編

もうあとは普通の肉のように調理をするだけです。今回は熟成肉の匂いなどをなるべく感じたかったので、Anovaで低温調理をして、極力シンプルに表面を焼くだけにしました。

フライパンをカンカンにして焼きます。ここでの驚きは脂が全く跳ねなかったことです。肉の自由水が抜けると、ここまで脂が跳ねないというのは驚きの体験でした。

この後に比較のための普通の肉を焼いたのですが、そっちは脂が跳ねすぎて完全に火傷しました。小指サイズくらいの傷が足にできました。熟成肉を焼いていて脂が跳ねなかったので、フライパンの温度が高いということに気が付かなかったのが要因です。

#

左が熟成させた肉で、右がその日に買ってきた肉です。部位自体が違うので完全な比較にはならないですが、匂いや味の濃厚さは明確な差がありました。

これが美味しいかと言われると微妙なところです。こういうのもありだなという感じです。

何より本当に食べて大丈夫なのだろうかとビクビクしながらの食事はあまり楽しめないです。極度に食の安全にこだわる人の気持ちが少しわかりました。

# 次のアクション

  • 肉の大きさを重視して肉を選んでしまったので、脂身が多い部位で熟成させてしまった。次は赤身でやりたい。
  • 冷蔵庫を占有してしまったので、大きな or 専用冷蔵庫を買いたい。
  • もっと敵情視察に行く。

# 追伸

長年愛用している Anova がお亡くなりになるそう。